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- 今後の構想として、さらに過去の話などはあるのでしょうか
- 宮尾
- 今回は、初のダンジョンである『バアル攻略編』をアニメ化したわけですが、その中で父親の影響を受けたシンドバッドの様子が浮き彫りになっているんです。自分の中では父親とのエピソードがあったらもっとシンドバッドの描き方も変わって来ていたと思うんですよ。シーンで言えば、今回は父親とのやりとりって形見の剣を受け取るところだけなんです。母親から剣を託された時のシンドバッドの表情でどれだけ見せられるかを考えてやりましたが、父親の扱いかたによって重みがまるで違ってきてします。できるならばちゃんと生きている頃の父親とシンドバッドをやりたいですね。
- 父親との関係が濃密すぎると、実は後半の人間を超えるシンドバッドにつながる流れが見えにくいのもありますね。一般的な作品としての「少年もの」は父親とのやり取りから出発して、いつか父親の思いをかなえるみたいな方向に行くイメージが強いです。でもシンドバッドはそこが少し違う。そこに違和感をおぼえる人も多いと思います。それはダンジョンで得たジンの力を「さらに大きな目的・志のために使うんだ」と誓い、彼の中で家族との関係を断ち切っている、という物語の構造があるからかなと。それがわからなかったら、父親をどこかでひきずって、戦っていくシンドバッドじゃないと人間っぽくないなと思えてしまうかもしれません。その断ち切った過去として、いつかはしっかり描いてみたいですね。
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- 先に『バアル攻略編』を作っている分、より深みを増して描けそうですね
- 宮尾
- そうですね。シンドバッドにとって、ある意味最初にして最後のピースなのかもしれません。
- 岸本
- 今年も公開が予定されている某宇宙戦争映画っぽいですよね。つまり父親との話はエピソード1として取っておくということ(笑)。描かれている物語はこれだけれど、世界はその前からあったし、他の場所では別の物語が紡がれている。そして、もちろんその後も物語は続いていく。そういった歴史的、空間的壮大さが『マギ』という物語の大きな魅力だと思います。
- 宮尾
- 原作者の大高さんが掴んでいる物語の核心部を共有していくことが大事ですね。映像化に当たって、その柱の部分を確認しながら広げていけたら、色々なキャラクタ−が増えていってお話が広がっていっても、ファンの方もちゃんと安心して楽しく見ることができると思います。「センス」を理解する力も「センス」だと思うので、さらに映像にも磨きをかけて頑張りたいですね。
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- 大高先生の中では、200年前のシェヘラザードの時代から、この先まで大きな叙事詩じゃないですけど、物語ができているそうです。すごいあるなと思いますね
- 岸本
- 歴史と空間が広がっていけばいくほど、切り取られた個々のエピソードはより深い意味を帯びていきます。『マギ』の世界が、どこまで広く深くなっていくのかとても楽しみですし、その一端にかかわれることを光栄に思います。
- 宮尾佳和 (BARN STORM) プロフィール
- 丁寧なキャラクター描写と激しいアクションに定評があるアニメーション監督。
監督作である「イナズマイレブン」では企画立案から深く関わっている。
- 岸本 卓 プロフィール
- 「サイゾー」編集部、スタジオジブリ勤務を経て脚本家になった異色の遍歴の持ち主。
アニメ「銀の匙」のシリーズ構成・脚本をてがけている。